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東京地方裁判所 平成5年(ワ)5672号 判決 1994年2月25日

原告

原田信重

被告

丸善住研株式会社

右代表者代表取締役

平賀功

主文

一  被告は、原告に対し、金五一万七〇三〇円及び内金三五万七〇三〇円に対する平成四年一二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七〇万円及び内金五四万円に対する平成四年一二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、住宅設備機器の販売及び修理、土木建築工事の設計施工、請負、塗装、造園工事の請負、その他これに付帯する一切の事業を目的とする会社(以下「被告会社」という。)である。

2  原告は、平成二年五月頃、被告会社との間で、日給月給制で一日一万五〇〇〇円、毎月末日締め翌月八日払いの条件で、原告が常雇大工として被告会社に対して労務を提供するとの内容の労働契約を締結し、解雇当時には一日金一万八〇〇〇円の支給を受けていた。

3  被告会社は、平成四年四月下旬頃、原告に対し、労働基準法二〇条所定の解雇予告期間をおかずに原告を解雇する旨の意思表示をした。

4  被告会社は、原告に対し、解雇予告手当として三〇日分の平均賃金五四万円の支払義務があるのに、これを支払わない。

よって、原告は、被告に対し、解雇予告手当金五四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四年一二月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに付加金一六万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。原告は、自前の大工道具を使用し、世間一般の常雇大工の報酬よりも高額の報酬を受け、被告会社に請求書及び領収書を提出して報酬の一部を手形で受領し、また、被告会社で仕事がないときには、他の企業で仕事をすることが前提とされていたものであるから、いわゆる常雇大工ではなく手間請大工であり、外注加工の下請として被告に対して労務を提供してきたものである。したがって、原告と被告会社間の契約関係は、労働契約ではない。

3  同3の事実は否認する。被告会社と原告間の契約は労働契約ではないから、被告会社は原告に対して解雇の意思表示をしたものではない。

4  同4のうち、被告会社が原告に対して解雇予告手当を支払っていないこと認め、被告会社が原告に対して解雇予告手当の支払義務があることは争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  被告会社が住宅設備機器の販売及び修理、土木建築工事の設計施工、請負、塗装、造園工事の請負、その他これに付帯する一切の事業を目的とする会社であることは、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(労働契約の存在)について

1  成立に争いのない(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、被告の「大工募集」、「一日に二時間の休みを入れてゆったりとした会社」との内容の新聞広告を見て、被告会社代表取締役平賀功(以下「被告代表者」という。)の面接を受け、平成二年四月、日当一万五〇〇〇円、毎月末日締め翌月八日払いの条件で、原告が被告に対して大工としての労務を提供するとの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(二)  被告会社は、月給制の六名の社員と原告と同様の大工、水道工、クロス工、ペンキ塗装工等の数名の職人を専属的に抱えていた。原告は、家の増築、床の張替え等の大工職人としての本来の仕事のほかブロック工事、ペンキ塗り、屋根のブリキ張替え等の仕事にも従事していた。

(三)  原告は、自宅に近い現場に直行する場合を除いて、原則として毎日午前七時三〇分頃までに被告会社事務所に赴き、被告代表者が中心となって午前八時頃までミーティングが行われた。被告代表者は、ミーティングにおいて、当日の仕事先である現場を指示し、ミーティングに出席しない場合には自宅から電話で右現場を指示するが、複数の現場のうち具体的に誰がどこの現場で作業に従事するかについては、被告代表者から特段の指示がない限り職人間で決められていた。このようにして、原告は、被告代表者から指示を受けた現場の仕事を終えると、被告代表者が指示する次の現場で仕事に従事した。

(四)  被告代表者は、作業現場に赴いて直接に指揮監督することはなかったが、現場監督あるいは古株の大工である加藤等の現場責任者的立場にある者からの報告を受け、或いはこれらの者に対して指示することによって、原告らの作業状況を把握し、指揮監督していた。原告が仕事に使用する大工道具は、原告の所有物であったが、必要な資材等の調達は被告会社の負担であった。

(四)(ママ) 原告は、本件契約が解消されるまで継続的に、多い月で二六日間、少ない月で一七日間被告会社の現場で作業に従事し、勤務時間の指定こそされていなかったが、事実上午後五時三〇分まで時間的拘束を受けて労務を提供していた。しかも、原告は、被告会社における就業期間中他で仕事をしたことはなく、もっぱら被告会社からの報酬のみにより生計を営んでいた。

(五)  原告は、本件契約当初は一日当たり一万五〇〇〇円、最終的には一日当たり一万八〇〇〇円の日当計算により月末締め翌月八日払いの条件で報酬の支払を受け、午後五時三〇分以降に労務を提供した場合には、日給を八時間で除した額を一時間当たりの額として残業手当に相当する報酬の支払を受けていた。もっとも、被告会社は、原告を含む職人らに対して、数量欄に人数として稼働日数を、単価欄に日当額を記載した請求書を提出させたうえで、その一部を小切手で支払い、支払の際には領収書を徴していた。なお、被告会社は、原告の賃金から所得税を源泉徴収していなかった。

2  右認定の事実によれば、原告と被告会社は、平成二年四月、日当一万五〇〇〇円、毎月末日締め翌月八日払いの条件で、原告が被告会社に対して大工としての労務を提供するとの内容の本件契約を締結したことが認められる。

そして、本件契約が労働契約であるか否かについては、原告と被告会社間に実質的な使用従属関係が存在するか否かに求められると解するのが相当であるところ、右認定の事実によれば、被告会社は、原告を含む右職人らを被告会社の指揮監督下において、その提供する労務を被告会社の事業運営の機構の中に組み入れているものであり、また、原告に支払われた報酬は、もっぱら原告が提供した労務のみに対する対価とみることができ、しかも、原告は、被告会社から本件契約を解消されるまで専属的に被告会社に労務を提供し、被告会社からの報酬のみにより生計を営んでいたこと等の事情が認められるから、原告と被告会社との間には実質的な使用従属関係があったというべきであり、本件契約は労働契約と認めるのが相当である。

そうすると、原告と被告会社は、平成二年四月、日当一万五〇〇〇円、末日締め翌月八日払いの条件で、原告が被告会社に対して大工として労務を提供するとの内容の労働契約を締結したことが認められる。

三  請求原因3(解雇の意思表示)について

1  (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成四年三月六日、仕事中に脚立から転落して左手を負傷し、翌七日以降就労できない状態となったこと、そのために、原告は、生活費にも事欠いたことから、土建一般労働組合狭山支部書記長を通じて、被告代表者に対し、生活費借入れに応じて欲しいこと及び労働者災害補償給付申請を早急に行なって欲しいことを申し入れたが、被告代表者は、「仕事がひまだ、金がない。」との態度であったこと、原告は、労働基準監督署の指導の下に、被告会社に対し、休業補償給付金支給の請求手続をとることを求めたが、被告代表者は右手続に消極的であったうえ、労働基準監督署の仮払いの指示にも従わなかったこと、原告は、同年四月二五日頃、被告代表者に対し、同年五月の連休明けから仕事へ復帰したい旨を申し出たところ、被告の他の職人には仕事があったにもかかわらず、被告代表者は、原告に対し、「今仕事がないからちょっと待ってくれ。」と述べ、その後にも「仕事がない。追って連絡する。」、「他に仕事を探してはどうか。ペンキ屋を紹介しようか。」などと述べたこと、これまで被告代表者は、右のような対応をした後連絡をしないまま放置して、職人が自ら辞めるように仕向けたことがあったこと、原告は、被告代表者の右の言動をもって解雇されたものとして、同年五月の連休明け後、被告代表者に対し、「道具を持っていきます。」と言ったのに対し、被告代表者は、「あ、そう。」とのみ述べたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  右認定した事実によれば、原告からの復帰申入れに対する被告代表者の右対応は、それ自体のみを捉らえれば解雇の意思表示とはいえないとしても、右認定したその前後の諸事情をも併せ考慮すれば、使用者による労働契約解消の意思表示と認めるのが相当である。

そうすると、被告会社が、平成四年四月下旬頃、原告に対して、労働基準法二〇条所定の解雇予告期間をおかずに原告を解雇する旨の意思表示をしたことが認められる。

四  請求原因4(解雇予告手当)について

被告会社が解雇予告手当を支払わないことは、当事者間に争いがないから、被告会社は原告に対して三〇日分の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払義務がある。

成立に争いのない(証拠略)によれば、原告は、平成四年三月七日以降同年四月下旬頃に解雇されるまで業務上の負傷により休業していたところ、原告の休業直前の賃金は、平成三年一二月分が三八万七七〇〇円(日給一万八〇〇〇円の二一日分及び交通費九七〇〇円)、平成四年一月分が二八万九六二〇円、同年二月分が四〇万五七〇〇円であることがそれぞれ認められるから、原告の平均賃金は一万一九〇一円、三〇日分の平均賃金は三五万七〇三〇円と認められる。

したがって、被告会社は、原告に対し、解雇予告手当金三五万七〇三〇円を支払うべき義務がある。また、これと同額の付加金については、原告が被告会社に対して支払を求めている一六万円の限度で支払うべきことを命じるのが相当である。

五  よって、原告の本件請求は、被告に対し五一万七〇三〇円及び内金三五万七〇三〇円に対する弁済期経過後である平成四年一二月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本宗一)

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